将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

第67期名人戦第6局:「銀多伝」を楽々と攻略する羽生名人

郷田九段の陽動振り飛車と「銀多伝」

第67期名人戦・羽生善治名人VS郷田真隆九段戦の第6局にて、後手・郷田九段の選択した戦法は、まさかの陽動振り飛車(陽動向かい飛車)だった。
三間飛車関連の将棋ではないので取り上げるつもりはなかったが、終盤戦で興味深い陣形が出現したので紹介しておこう。
その陣形とは、「銀多伝」。

銀多伝とは?

「銀多伝定跡」は、「2枚落ち(飛車角落ち)定跡」における下手の優秀な布陣のことである(第1図)。

二枚落ち
二枚落ち(にまいおち)は将棋のハンデキャップの一つ。飛車、角行の大駒を上手から取り除いて攻撃力を抑えた状態で対局する。
攻撃力は低いが、防御力は十分にあるので、攻める下手には要領の良い攻撃能力が要求される。
下手側の定跡として「二歩突っ切り」「銀多伝」の二つが有名である。

「銀多伝」でWeb検索をかければ、優秀な解説ページがいくつも見つかるので、銀多伝定跡の解説はそちらに譲る。

名人戦第6局で現れた、「銀多伝+α」

この所謂「銀多伝囲い」が、名人戦第6局で出現した(第2図)。

しかも、第2図の時点で通常の銀多伝+金1枚、金駒計4枚の強力な布陣の上、第2図の数手後には、さらに銀1枚を投入した「5枚銀多伝」となった(第3図)。
アマチュアが指しているのならば、ひと目「目が腐る」と評価されてしまいそうな受け方と陣形である。

インターネット将棋道場では駒落ち対局が少ない

インターネット上でしか将棋を指したことがない方は、「銀多伝」をご存知無いかもしれない。ここで私が述べている「インターネット上で将棋を指す」とは、「将棋倶楽部24」「Yahoo!将棋」などのインターネット将棋対戦スペースで将棋を指す、ということを意味している。

インターネット将棋道場には、多くのプレーヤーが誰かしら常時ログインしており、自分の棋力とあった対戦相手を見つけることが非常に簡単だ。
したがって、「駒落ち対局」をすることは稀で、たいていは「平手対局」をすることになるだろう。*1
一方で、町道場に通ったことがある方や部活の将棋クラブに所属したことがある方は、自分より圧倒的に棋力が上か下の相手と対戦する機会が訪れやすい。
なぜなら、同程度の棋力の相手とだけローテーションで対局するには人数が不足しているのが一般的だからだ。
また、このため棋力の異なる相手との対戦が生じやすいわけだが、棋暦も違えば年齢・学年も違い、棋力のバラツキが激しいのだ。
したがって、圧倒的な棋力の差に従い「駒落ち対局」をすることがありうる。

駒落ち対局に勝つには、駒落ち対局のノウハウを身に付けることが1つの解となる。
そして実は、偉大なる先人達の「駒落ち対局に勝ちたい」という思いの結晶として、駒落ち対局にも数々の定跡が編み出されている。
「必要は発明の母」という言葉がぴったりと言えよう。

駒落ち対局の参考書籍

一瞬で寄せた羽生名人

郷田九段にとってなんとも鈍重な陣形とはいえ、その恩恵として第3図からまだまだ将棋は長引きもつれるようにも見える。
だが勝負は、あっという間に決まってしまった。第3図の数手後から、羽生名人が見事な超手数の実戦詰将棋を見せてくれたのだ。
ネット上では、「コンピュータも詰みを見つけていなかった。
羽生がコンピュータを越えた!」といったような、よく考えると滑稽なコメントも飛び交っていたようだ。
終盤のコンピュータに対する信頼度は、もはや人間を凌駕している、というパラダイムが十分成立しつつあるのかもしれない(コンピュータが詰みを見つけていなかったのは、考慮時間不足によるものだろうか)。
寄せの詳細および1局を通しての詳しい解説は、後日雑誌での解説で堪能することとしたい。

*1:ところで、この「駒落ち対局経験が不足しがち」という事実が現代の将棋観にある程度影響を与えているのではないか、と私は推測しているのだが、これについてはいつか別のエントリーで述べたい。