将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

//移転しました。

第51期王位戦第5局:家庭用「激指」が見た千日手局

広瀬六段が王位に王手

既報の通り、第51期王位戦第5局にて広瀬章人六段が千日手の激闘を経て深浦康市王位に勝利し、王位獲得に王手をかけた。棋譜と詳しい解説は、王位戦中継サイトをご覧あれ。

脅威の指し手一致率

第5局は、千日手局と指し直し局の2局に及ぶ激闘だったわけだが、千日手局についてPC用将棋ソフト「激指定跡道場2」を用いて細かく解析を行った、とても興味深いブログエントリーを見つけたので紹介させていただく。これはすごい。

この中で、対局者両者と激指の指し手一致率(最善候補手か次善候補手に一致した率。補足を後述する)について載っているのだが、その値は脅威の92%。

31手目から90手目まで、先手と後手両方合わせての指し手一致率【最善候補手か次善候補手に一致した率】は92%で、60手中55手が的中、最善候補手のみとの一致率でも68%に達していた。31手目から90手目で片側の指し手30手中の最善及び次善候補手の一致率を『指し手一致率』と呼んで、これが90%を越えるようだとソフト指し間違いなしといった感じなのだが、こうなると王位も挑戦者もソフト指し認定されてしまうことになりそうだ。

24会員の大半(9割9分)がアマチュアであり、「ソフトの指し方に近ければ近いほど、それは有り得ない強さである。ソフト>指し手」という前提が「ソフト指しは悪」といわれる所以であるが、「トッププロ>ソフト」の世界では、「プロがソフト指しをしている」というよりも「ソフトの中の人はトッププロ」と表現した方が相応しいかもしれない。
それにしても、家庭用PCでこれだけ強いのか・・・。私は「激指3」を所有しているが、低スペックPCだからか、そこまで強いとは感じない(といいつつなかなか勝てるわけではないが)。

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将棋倶楽部24におけるソフト指し認定規定

将棋倶楽部24におけるソフト指し認定規定を調べたので、紹介しておく。


将棋ソフトとの指し手一致率にて、将棋ソフトと認定します。
ソフト指しと認定された場合、その会員の方のお持ちのすべてのHNを削除いたします。
注記:たとえ家族の方名義のHNであっても使用できなくなります。
注記:その後、もし新規登録成功しても、同一人物と判明すれば即削除いたします。

  • 指し手が一致する確率は、10億局に1局以下です。(下記限定条件にて計算)
    • 31手から90手までの片側30手を対象とし
    • 指し手の候補は2手とする
  • よって、千年続いても棋譜が他の人(含む将棋ソフト)と一致することはありません。だからこそ、千変万化の将棋、棋風性格のでる将棋、は面白いのです。

この「指し手の候補は2手とする」に則り、前述の通りの指し手一致率を算出しているわけだ。なるほど。

Android向け対局時計アプリ開発中(2)

2010/09/21追記

Android Marketに登録しました。詳しくは下記を参照下さい。

(追記ここまで)

ユーザーインターフェースを改善、他

2010/05/23のエントリー「Android向け対局時計アプリ開発中(1)」以来、サボりにサボって7月末から開発を再開し、現在にいたる。
前回の時点では味素っ気も無いUIだったが、これを自分流のデザインテイストにアレンジしてみた(動画中の赤い吹き出しは、Youtubeの機能で付け足したアノテーションであり、実際には表示されない。吹き出しにも書いたように、低スペックPCでエミュレータ&動画キャプチャ同時実行のため、切り替わりがぎこちないのはご容赦下さい)。

前回同様持ち時間と秒読みの設定が可能で、それに加えて秒読みサウンドを付けた。「秒読みサウンド」とは、いわゆるラスト30秒、20秒、そして10秒〜0秒のときに鳴る「ピッ」という音のことだ(今回使用した動画スクリーンキャプチャツールでは、音が拾えなかった)。秒読みサウンドのオン/オフを切り換えられるようにもした。解像度の異なる複数の主要なモニタにも対応した(少なくともエミュレータ上では)。

サウンドに苦労、他

たかだか「ピッ」という音なのだが、これが曲者。私が所有している書籍「初めてのAndroid」と「Google Androidアプリケーション開発入門」のうち、前者にサウンドプレーヤーのサンプルが載っていたのでこれを参考にしたのだが、なぜか音を鳴らすたびにデバッガ上で警告が出て、やがてエミュレータ上のアプリが強制終了してしまう。「MP3音源よりOGG音源の方が安定している」というような記述を同書やネット上の文献で読んだのでOGG音源に代えたところ、音出力毎の警告は出なくなったが、ホームキーでアプリを終了→再度アプリ立ち上げ→秒読み開始→ホームキーで・・・と繰り返しているとやがてエラーが発生する。メモリやらは開放しているはずなのだが。
現在音を鳴らすのにMediaPlayerクラスを用いているのだが、「効果音のように短い音源の場合はSoundPoolクラスのほうが良い」らしいので、作り替えが必要になりそうだ。
そして上述の通り、相変わらずエミュレータ上でのテストのみで、実機は何も持っていない。どうも年内にはiPadiPod Touchに並ぶような「まともな」Androidタブレット*1は国内で発売されない模様で、もうしばらく待つ必要がありそうだ(これでは開発のモチベーションが上がらないのもやむなし)。

2010/08/26追記

原因を突き止め、修正できた。

参考文献

初めてのAndroid
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*1:つまり「EKEN」は対象外、ということだ(失礼)。

ネット対局できる実体チェスボード

インターネット越しの相手と、実物のチェスボードを用いて対戦しているかのような感覚を味わえる盤駒を開発しているプロジェクトがこちら。


Internet Chess Tableは、インターネットチェスを本物の盤と駒で楽しむために開発したプロジェクトです。 ディスプレイには、20ワットLEDを使った自作の低解像度(64×64ピクセル)液晶プロジェクターを使用しています。これで相手の駒の動きや、ゲームに関する情報(持ち時間など)を表示します。さらに、駒の動きを認識するシステムがあり、駒をムーブすると、盤上にフィードバックされます。

モニター越しの対局だとどうにもモチベーションが上がらないので、とても良いプロジェクトだ。ぜひとも将棋でも実現してほしい。
弱点として、相手の駒は自動的には動かない。盤面に投影された指し手にしたがって、自分で移動させる必要がある。これが改善されると、よりリアルな体験が楽しめるだろう。

第23期竜王戦決勝トーナメント:久保二冠、挑戦者決定三番勝負へ

久保利明二冠、磐石の勝利

第23期竜王戦竜王戦決勝トーナメント準決勝にて、久保利明二冠が丸山忠久九段に勝利し、挑戦者決定三番勝負へ駒を進めた。
棋譜と詳しい解説は、竜王戦中継サイトにてご覧下さい。

2手目△3二飛戦法

竜王戦決勝トーナメント準決勝という大勝負で後手・久保二冠が選んだ戦型は、なんと二手目△3二飛。もっとも、久保二冠がこの戦法を裏芸として結構多用しているのは以前にも述べた(2009/03/31のエントリー『「久保利明棋王」誕生』など)通りだ。
2手目△3二飛戦法の参考文献としては、言わずと知れた(?)「2手目の革新 3二飛戦法」が挙げられる。本譜のような相三間飛車の形も、当然解説されている。

2手目の革新 3二飛戦法 (マイコミ将棋BOOKS)
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三間飛車

それに対し、先手・丸山九段(居飛車党)が採った対抗策は、これまた珍しい三間飛車。手順の妙で、わずか3手目にして全く前例のない局面をむかえたそうで、本当に将棋は奥が深い。その後、結果的には穏やかで類型のある局面に落ち着いた。
筆者のホームページ「三間飛車のひとくちメモ」内の「猫だまし戦法(初手▲7八飛戦法)講座」の中で、


居飛車党の神谷先生いわく、「初めてかもしれない」という相振り飛車を選択。 まんまと先手の挑発に乗ってしまい、全く慣れない戦型に進めてしまったということでしょう。 この時点、である意味先手が大成功です。
と書いたが、丸山九段のこと、熱くなることはないにせよ、冷静も保ちつつもいつの間にか久保二冠の土俵に入り込んでしまった、といえるかもしれない。

三間飛車の最近の参考書籍としては、「鈴木大介の将棋 力戦相振り編」が挙げられる。全ページ数の3/4程度を相三間飛車の解説で占めており(残りの1/4は相中飛車)、また本譜のような△3五歩保留型も載っている(ただし後手がすぐに△7二金と上がる形を紹介している)。

鈴木大介の将棋 力戦相振り編
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玉をさばく

本局で最も印象に残ったのは、じっと銀を上がった56手目△6四銀(図省略)。それまで攻め駒不足の印象を受けたが、これで中央での駒交換(カナ駒が持駒に入る)が必至となり、急に攻めに厚みが出てきた感がある。

自玉が堅すぎるときは、自玉の囲いをさばく。

振り飛車党が自分から仕掛ける場合は、薄い攻めから始まることが多く、中終盤に手順に囲いをさばき、手駒を増やし、攻めを厚くする・・・こんな傾向が振り飛車党には強いのかもしれない。先日の第58期王座戦挑戦者決定戦でも、終盤に藤井猛九段が63手目に▲6六金(図省略)という見事な囲いさばきをみせて金を手駒にし、快勝した。

はたして竜王戦挑戦者決定三番勝負でも久保二冠の華麗なさばきをみることができるだろうか。楽しみだ。相手は羽生善治名人か、阿久津主税七段か?

コンピュータ将棋VS女流プロ:合議に参加するのはボナンザ+激指+GPS将棋+YSS?

ボナンザ+激指+GPS将棋+YSS

なぜこのタイミングなのかわからないが、10月に行われる「コンピュータ将棋」VS「女流トッププロ棋士」公開対局の紹介記事が先日上がっていた。


「プロ棋士並み」とされる将棋ソフトの連合チームが10月11日、清水市代女流王将に挑戦する。情報処理学会(白鳥則郎会長)の「トッププロ棋士に勝つためのコンピュータ将棋プロジェクト」の一環で、日本将棋連盟米長邦雄会長)が受けて立った。3年半ぶりとなるプロ棋士との“真剣勝負”で、コンピューターはどんな進化を見せるのか。

この記事の中で紹介されていた画像がこちら。
この画像の出展となっているサイトを探してみたのだが、見つからなかった。見た目から察するに、新聞か何かの記事からの引用なのかもしれない。
ともかくこの画像では、合議に使われるコンピュータ将棋がボナンザ+激指+GPS将棋+YSSであることが示されている。今年4月の記事「情報処理学会が将棋連盟に挑戦状 米長会長、「いい度胸」と受けて立つ - ITmedia News」の段階では、

対局では、複数のソフトを疎結合で並列計算させ、それらの意見を集約して次の一手を決める合議アルゴリズムを使う予定。「GPS将棋」「Bonanza」「激指」「YSS」「TACOS」「柿木将棋」などから、実験をもとに最適な組み合わせを採用する。合議より単独が強ければ単独の可能性もあるという。

と述べられていたのだが、今年5月に行われた「第20回世界コンピュータ将棋選手権」の結果を受け、やはり順当に「GPS将棋」「Bonanza」「激指」「YSS」が選ばれることになったのかもしれない*1
また、第20回世界コンピュータ将棋選手権では、Bonanzaライブラリを使用していない「習甦」というプログラムも上位(2位)に入った*2のだが、長い実績を考慮すると「GPS将棋」「Bonanza」「激指」「YSS」を優先すべき、という配慮だろう。

関連URL


イベント名:情報処理学会創立50周年記念事業
トッププロ棋士に勝つためのコンピュータ将棋プロジェクト
「コンピュータ将棋」VS「女流トッププロ棋士」公開対局決定!!

「95%勝つ」

はじめに紹介した記事の中では、こんなことも書かれている。

一方、情報処理学会のプロジェクトで副委員長を務める公立はこだて未来大の松原仁教授は「コンピューターが95%勝つ」と強気だ。プロジェクトの最終目標は竜王、名人に勝つこと。松原さんは「(現名人の)羽生善治さんにコンピューターが勝てば、機械学習と合議制の組み合わせで、人間の直観のような機能を持てたといえるかもしれない」という。

ここで怖いのは、「95%」という数字。煽りや漠然とした自信、というわけではなく、過去の清水市代女流王将棋譜データを取り込み、棋力判定*3した結果から導き出した、科学的・合理的な数値なのではないか、と勘ぐってしまう。怖いのはコンピュータ将棋だけでなく、その開発者の方々の頭脳、というわけだ。

実のところ、最近の清水女流王将の戦いぶり(第59期王座戦・牧野光則四段戦と、第60回NHK杯・堀口一史座七段戦)を見たとき、私としてもコンピュータ将棋側の勝率が95%なのではないかと感じてしまった。清水女流王将の終盤の失速が著しく、本来の調子が全然出ていない様子だ。
ただしこの2局は相手が悪かったともいえる。また、コンピュータ将棋にも出来不出来がある(うっかり棒銀を選んでしまう*4と力が出せないというのが、週刊将棋誌上で先日まで行われていた東大将棋部−コンピュータ将棋の対抗戦であらわとなった。まあ棒銀を選ばないよう手動で調整してしまえばよいのだが)。

はたして「95%」が順当に力を見せて圧勝するのか?「5%」が炸裂するのか?あるいはそもそも「50%−50%」で、互角の者同士の熱戦が繰り広げられるのか?こうご期待。

*1:「TACOS」「柿木将棋」はここ数年振るわず、今年も結果を残せなかった(いずれも2次予選敗退)。

*2:同じく上位に入った「ボンクラーズ」(4位)はBonanzaライブラリ使用のクラスタ構成プログラム。

*3:膨大な実戦局面における仮想最善手(今やコンピュータ将棋の導き出すこれがやたらと正確)と清水女流王将の指し手との一致率から棋力を割り出す、などの手法を推測。

*4:コンピュータ将棋は、序盤のどう指しても互角(定跡通り)という局面で、乱数を用いて指し手や戦型を選んでいくのが一般的。