将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

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相三間飛車 4手目△3二飛

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第67期A級順位戦8回戦 鈴木大介八段VS藤井猛九段戦

普通の人は「ありえない」と驚くだろう。初手から、▲7六歩△3四歩▲7五歩。ここまでは近年頻発の、石田流を目指す手順だ。ここで4手目△3二飛(第1図)!

普通はこの手は指せない。当然のごとく、角交換から▲6五角と両取りに打たれる手が見えるからだ。この4手目△3二飛がなんと▲鈴木八段VS△藤井九段戦で現れた。

ここで、別の話に移ろう。実はこの4手目△3二飛は、2手目△3二飛戦法と少なからず関連がある。

2手目△3二飛戦法 3手目▲7五歩

以前、2008/03/12のエントリー「続・いきなり三間」にて、「2手目△3二飛戦法」(初手から▲7六歩△3二飛!)に対し、「3手目▲7五歩(第2図)とされたらどうすれば良いかわからない」と述べた。

そして例の1つとして、第2図以下4手目△3四歩(第1図と同じ局面になる!)と突く場合について以下のように述べた。

(4)△3四歩には、▲2二角成△同銀▲6五角△5四角▲8三角成△8七角成。以下じっと▲5六馬で、先手のほうが指しやすいか。ところでこの(4)の変化は、初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩と突く定跡形のときに△3二飛と回ったのと同じ局面である。このタイミングでの△3二飛は、定跡書でもプロの実戦でも見たことがない。相三間飛車を目指すならば△3五歩が正しい。△3二飛が指されないのは、
 1.互角だが先に△3五歩のほうが無難で心配無用だからか、
 2.角交換から▲6五角で後手悪くなるからか、
理由は定かではない。1、2のいずれにせよ、この局面が現れたことがないというデータは、(4)△3四歩があまりいい手とはいえないことを暗に示しているといえそうだ。

続いて、2008/05/28のエントリー「2手目△3二飛戦法の追加情報と「新鋭居飛車実戦集」」にて以下のように述べた。

「続・いきなり三間」で、3手目▲7五歩と突かれたときに後手はどうすればよいのかわからない、と述べた。これに対する回答が「新鋭居飛車実戦集」(西尾明, 大平武洋, 村中秀史 著)に載っていた。少し意外な手順だった。発売したばかりなので引用は避けておく。

以来引用することもなく今日を迎えたわけだが、そう、3手目▲7五歩(第2図)に対する正解手は、藤井猛九段がついに導いた第1図の局面に合流する「△3四歩」だ。角交換→角の打ち合い→角の成り合い、となった局面は、実は後手良し。私の大局観が間違っていた(といっても、以下は腕力勝負としか言いようのない乱戦模様だが・・・)。

ただ、納得しきれないところもある。相三間飛車を目指すなら、上述の

1.互角だが先に△3五歩のほうが無難で心配無用

は疑いようの無いことだし、なぜわざわざ先に飛車を振る必要があるのか?

4手目△3二飛の意味

その問いには、早速藤井九段が指し手で答えを示している。対局に戻ろう。
本譜、鈴木九段は5手目▲7八飛。自然な進行だ。ここで6手目△3五歩として普通の相三間飛車に戻っていたならば、私はわざわざこの対局について取り上げる気は起きなかったと思う。
しかし、藤井九段の序盤への飽くなき挑戦は続く。6手目△7二金!(第3図)

3筋の歩を保留しての金上がり。4手目△3二飛としていなければできない構想だ。藤井九段は通常の相三間飛車よりもこの方が得と判断した。か、もしくは同等ではあるが自身の研究局面に完全に引きずり込むことに成功した。

結果は藤井九段の圧勝・・・といいたいところだが、終盤間違えて辛勝。中終盤の激しい応酬の解説が、「将棋世界」2009年4月号に載っているので、お楽しみあれ。

新手?

この4手目△3二飛、新手なのだろうか?上述の将棋世界2009年4月号を楽しみにしていたのだが、この対局は取り上げられていたものの、残念ながら序盤の解説は無かった(指し手の紹介のみ)。ただ少なくとも、某棋譜データベースサイトで検索をかけた結果では、前例は一局も無いようだ。


「久保新手▲7五飛」に留まらない、未だ広がる序盤の可能性。将棋、恐るべし。