将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

「2手目△3二飛戦法」まとめ (特許明細書風)

発明の名称

2手目△3二飛戦法。「いきなり三間飛車」と呼ばれるケースもある(2008年4月現在)。「ミレニアムorトーチカ」、「△8五飛戦法or中座飛車」のように、今後も両名称が用いられていくかもしれない。

発明者と寄与率(寄与率は筆者の独断ですのであしからず)

  1. 今泉健司 三段  50%
    • 創始者。関西奨励会の今泉健司三段の発案が久保八段経由で関東の長岡四段に伝わったものとされる。なにより最初に気付いたのは偉い。升田幸三賞を受賞したのが今泉先生(なお、奨励会員で初の受賞)であることから、公式にも今泉先生の寄与率が一番高いという評価であろう。
  2. 長岡裕也 四段  30%
    • プロ公式戦1号・2号局。十分な研究の末、実戦で採用できる目処を立てたのだろう。とはいえ実際使うとなると震えるもの。しかも1号局に負けた後すぐに再採用。それぞれの決断は賞賛に値する。
  3. 久保利明 九段  20%
    • A級順位戦で初採用。戦法の「信頼度」を一気に高め、流行に大きく貢献したといえる。

要約

課題

▲7六歩に対し、後手番で手損せず升田式石田流に組む。

解決手段

2手目△3二飛(第1図)*1

請求の範囲

将棋の対局において、2手目以降の本請求手順は、将棋界数百年の歴史を振り返っても例を見ない新規手順である。

請求項1

3手目以降▲4八銀〜▲6八玉のようなじっくりとした戦術に対し、△6二玉〜△7二玉から△3四歩〜△3五歩とし、▲6五角と打たれることも、手損することも無く升田式石田流とする手順。

請求項2

3手目▲2六歩〜▲2五歩に対する対応策。以下△6二玉▲2五歩△3四歩!以下▲2四歩には△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△2二飛(第2図)*2で後手良し。なお手順中△3四歩のところ△7二玉は、以下▲2四歩△同歩▲同飛△3四歩▲6六歩で後手不利。

請求項3

請求項2に記載の手順において、△2二飛のところ△3三角▲2八飛△2六歩▲7七桂△2二飛とする手順(第3図)*3。これも後手良し。

請求項4

請求項2に記載の手順において、△3四歩以下▲2二角成△同銀▲6五角に△7四角!(第4図)*4とする手順。以下▲4三角成△4七角成▲5八金右には△7四馬▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2八飛△4二金▲4四馬△3三銀▲6六馬△2二飛のような展開で互角とされる。

請求項5

請求項4に記載の手順において、△7四角以下▲同角△同歩▲7五歩の攻めに対して△7五同歩▲6五角(一見厳しいが・・・)△7六角!▲同角△同歩▲6五角△5二玉▲8三角成△7七歩成!(2度目の角合わせで歩を進めておいた効果)以下受け切る手順。

請求項6

請求項4に記載の手順において、△4七角成以下▲4八飛に対し△4六歩▲4七飛△同歩成▲6五角△4二飛!▲同馬△同金▲4七角△3三角(第5図)*5とする手順。

請求項7

3手目▲9六歩に対し△9四歩と受け、以下▲2五歩△3四歩▲2二角成△同銀▲6五角△7四角▲4三角成△4七角成▲5八金△7四馬▲9五歩!?(第6図)*6の端攻めに対して△9五同歩から受け切る手順(以下は省略)。

請求項8

3手目▲9六歩に対し端を受けず△6二玉と寄り、以下▲9五歩と端歩を突き越させる間に玉の整備と升田式石田流への進展を急ぐ手順(詳細は省略)。

発明の詳細な説明

技術分野

将棋における後手番の戦術

背景技術

近年、将棋の超序盤戦術(初手〜8手目辺り)への注目が高まっており、例えば初手▲5六歩や4手目△5四歩、また初手から▲7六歩→▲7五歩→▲7八飛→▲7四歩(第7図)*7など、一般に飛車・角道を通す手が良いとされる超序盤戦術に大きな風穴が開いてきたといえる。しかし、論理的に不可能、または成立しても無意味とされ見向きもされない手も、未だ数多く存在する。

続いて、16手目辺りまでの序盤戦術において、優秀な戦術のうちの1つに「升田式石田流」および「石田流本組み」が挙げられる。古くは、初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩と居飛車の意向を示してきた先手に対し、△3五歩▲2五歩△3二飛とし升田式石田流とする手段が存在した(手順中△3五歩に代わって△4四歩〜△3二飛とすると、ここで▲2五歩と突かれ、△3三角と上がらざるを得なくなり、失敗)。しかしその後、△3五歩に対し▲4八玉(第8図)*8と上がる手が発見された。これに対して△3二飛としてまうと、▲2二角成△同銀▲6五角で後手不利(以下△5五角には▲7七桂。また△7四角には▲4三角成△4七角成▲5八金右△7四馬▲5三馬。5筋の歩も取られるのが痛い)

そこで、第8図以下△4二飛!?とし(4三の地点をケアしているため▲6五角を食らわない)、以下玉を7二まで移動し8三の地点をケアしてから△3二飛と寄り、そこから升田式石田流を目指す手順が開発された(3・4・3戦法。詳しくは「(升田式)石田流のひとくちメモ -予備知識- 『3・4・3戦法』」参照)。

発明が解決しようとする課題

しかし上記手順が示す通り、3・4・3戦法は一手損しないと升田式石田流に組めなかった。本発明は、一手損せずに升田式石田流に組む手順を提供することにある。

課題を解決するための手段

初手▲7六歩に対し、2手目△3二飛。以下の手順は請求項参照。

発明の効果
  • 量的効果:
    • 一手損せずに石田流に組め、その一手を端歩などの玉の整備に回すことができる。
    • 本発明を初見の相手に対し、請求項に示す百数手分、事前研究量で上回ることができる。
    • 本発明を初見の相手に、分単位の考慮時間を強いる可能性が高い。(実施例として、第1回朝日杯将棋オープン戦 準決勝第2局▲丸山忠久九段対△羽生善治二冠戦にて、丸山九段は持ち時間40分のうち3手目に5分ほどを費やした。)
  • 質的効果:
    • 本発明を初見の相手を心理的にかく乱し、精神的に有利に戦える可能性が高い。

実施例

2008年3月前半までの実施例を下記に示す。

公開番号

2008-210321 (ニ テン(目) 32 ヒ)

公開日

2008.12.11 (第1号局対局日)

補足

本発明発見にいたる流れ(なぜ今まで指されなかったか)

2手目△3二飛は、背景技術に示した「論理的に不可能または無意味とみなされて見向きもされない手」のうちの1つだった。
しかし、近年の石田流の流行により、まず「後手番で、一手損せずとも石田流に組める」という意味付けが2手目△3二飛に与えられた。
かつ研究により「不可能(先手に急戦策でとがめられて後手不利になる)」ではないことがわかった。2手目△3二飛の局面は、普通研究する気にもならない悪形の局面だが、最近の佐藤康光二冠に代表される、「後手番なので多少の無理や乱戦気味は承知で序盤構想を組み立てる」という考え方が、研究に着手する意欲を後押ししたものと考えられる。具体的には、ひと目目につく▲6五角と打たれる変化について、先の2007年2月NHK杯決勝・▲佐藤康光VS△森内俊之戦における新手「康光流ダイレクト向かい飛車(角交換ダイレクト向かい飛車)」(第9図)*9での△4五角無効化構想で目が慣れ、▲6五角と打たれる抵抗感が薄れてきていたことも研究深化を後押ししたと思われる。

なお藤井猛九段は昔2手目△3二飛を研究し、難しい将棋(▲6五角△7四角の変化)になることはわかっていたが、「これでやれると思う人がこれをやる」と、必要性を見出さなかった(周知の通り藤井先生は四間飛車の大家であり、基本的に石田流は指さない)ため、結局これまで実戦で2手目△3二飛戦法を採用することは無かったとのこと。

初手▲7八飛戦法が指されない理由

初手▲7八飛戦法が成立することは昔からわかっており、実際プロの実戦譜が存在する(「猫だまし戦法(初手▲7八飛戦法)講座 -第1章 第2節-」参照)。しかしこれが広く指されないのは、初手▲7八飛としなくても先手番ならば石田流に組める(第7図の手順)ので、必要性が見出せないからである。

升田幸三賞受賞

2008/03/31に行なわれた第35回将棋大賞(日本将棋連盟制定)の選考会にて、2手目△3二飛戦法が、2007年度の升田幸三賞に輝いた。

新手の考案者などに贈られる升田幸三賞に「2手目△3二飛」戦法を開発した今泉健司・奨励会三段(34)が選ばれた。養成機関の奨励会員が将棋大賞を受賞するのは初。

懸念事項

本当に、先手側にとがめる手段が無いのかどうか、今後の動向が注目される。例えば渡辺竜王は、初手から▲7六歩△3四歩▲6六歩△3二飛と進む将棋に比べて先手は▲6六歩の一手を省略できることを引き合いに出し、「先手が振り飛車党だとやりにくい戦法なんじゃないか」と述べている。
なお、初手▲2六歩とされると、本戦法を用いることはできない。(以下△3二飛▲2五歩で飛車先が受からないため。)

参考文献
  • 「将棋世界」2008年4月号
  • 「週刊将棋」2008年3月5日・12日号

更新履歴

  • 2008.04.04
    • 初稿。何回かにわたり2手目△3二飛戦法についてのエントリーを書いてきたが、升田幸三賞受賞で一区切りついたので、まとめてみた。「将棋世界」2008年4月号から少しずつ引用させていただいている。本戦法に興味のある方は、この号を絶対に入手すべき。
  • 2008.04.15
    • 「発明の名称」に追記。「参考文献」を追加。
  • 2009.01.13
    • 「参考文献」に長岡裕也四段の書籍を追記。

図面の簡単な説明

*1:【第1図】2手目△3二飛まで。コロンブスの卵的な大きな発見。

*2:【第2図】12手目△2二飛まで。以下▲2三歩には△1二飛から△3二金〜△2二歩。ゴキゲン中飛車から、同様の変化が存在する(△6二玉でなく△5四歩が入っている)。

*3:【第3図】16手目△2二飛まで。ゴキゲン中飛車でも同様の変化があるが、玉が居玉でなく6二に上がっており、かつ△5四歩と突いていないため隙が無く、本譜のほうが条件が良さそう

*4:【第4図】10手目△7四角まで。△6二玉の効果で、▲4三角成の後▲5三馬と寄られる手を防いでいるのが大きい。

*5:【第5図】22手目△3三角まで。2008年3月時点で後手良しとされているが、今後の動向が注目される。

*6:【第6図】17手目▲9五歩まで。△同歩に▲9二歩とたたき、9一に飛車を打つスペースを空ける狙い。しかし混戦ながらも後手受け切ることができる。

*7:【第7図】7手目▲7四歩まで。いわゆる「鈴木新手」。かつてはこの手は成立しないとされていたが、鈴木大介八段が研究により結論を覆した。先手石田流の流行に繋がる、象徴的一手といえる。

*8:【第8図】5手目▲6八玉まで。先手石田流で、初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩に対しても△4二玉という同様の手が存在する。しかし先手石田流の場合は、△4二玉以下▲6六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7六飛、とぴったり石田流が間に合う。

*9:【第9図】13手目▲8八飛まで。以下△4五角と打たれても、▲3六角と合わせれば、△4七角成には▲5八金右(左)で馬が死んでいる。