将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

//移転しました。

第21回世界コンピュータ将棋選手権:ボンクラーズ優勝

勝戦を見に行ってきた


既報の通り、「第21回世界コンピュータ将棋選手権」は「ボンクラーズ」の初優勝で幕を閉じた。

ボンクラーズ」という名称には、2つの意味がかかっていたようだ。


今回、選手権で大活躍したボンクラーズは、ボナンザクラスターあたりの略だろうと思っていたのですが、実は、あずまんが大王ボンクラーズが元ネタだったらしいです
これは伊藤さん本人から聞きましたので間違いありませんw
絶妙なネーミングセンスw


早稲田大学・国際会議場で行われた決勝戦を見に行ってきた。会場が広く、同じ人の入りでもスカスカに見えることを差し引いても、昨年より来場者は少なかったのではないか。震災だけでなく、「ニコニコ生放送」で西尾明六段の大盤解説が行われた(「第21回世界コンピュータ将棋選手権 - ニコニコ生放送」参照)ことが少なからず影響したと思う。便利な世の中になったものだ。


国際会議場での解説者は、言わずと知れた「教授」勝又清和六段と、昨年新人王のタイトルを獲得した阿部健治郎四段。

勝又六段は、いつも通り過去のプロの実戦譜や定跡説明を交えながらの軽妙な解説。コンピュータ将棋の特徴にも詳しいので、非常にわかりやすかった。「水平線効果らしきものが最終盤(無意味な王手ラッシュなど)だけでなく中盤に発生しているように感じられる。」「不利なときの指し回しに課題。」と解説していた(私の意訳含む)のが印象的。

一方の阿部四段は、コンピュータ将棋の棋風については詳しくない模様で、勝又六段とは反対の、ニュートラルな視点で解説していた。そして最終盤の強さを素直に評価し感嘆していた。また、中盤に生じたいくつかの軽妙な桂使いに対し「人間と比べ桂の使い方がうまい。人間には瞬時には見えない。」と感心していた。例えば決勝4回戦・GPS将棋−ponanza戦(第1図)。

ここから△4八銀▲4七玉△5五桂!▲4六玉△5四桂!▲4五玉△4四歩▲同竜△同銀以下自玉を安全にしながらの攻めで、先手玉を再び後退させて安全勝ち。
ちなみに阿部四段の頭の回転が速すぎるのか、手順の再生と解説が異常に早く、聞いていて疲れてしまった。勝又六段と同様、もっとじっくり解説してくれるとうれしかった。

落ち着いているコンピュータ将棋

個人的には、有利な側の中盤の指し回しに感心した。具体的には、有利な側は中盤では無理をしない落ち着いた指し回しを選んでいる、という印象を受けた*1。また、それが「不利な側のプチ暴発」と相まって、中盤で差が開いた将棋を比較的多く生んでいたのではないだろうか。例えば決勝5回戦・習甦−ボンクラーズ戦(第2図)。

▲4三歩の垂らしに対し、後手・ボンクラーズは△5二金。囲いが悪形になるのを厭わない「森安流」だ。以下、完全に先手の攻めを切らして後手圧勝。なおボンクラーズは決勝4回戦のYSS戦でも堅実な指し回しで受けつぶしており、とりわけ落ち着いている印象を受けた*2
他には決勝7回戦・激指−習甦戦(第3図)。

ここから先手・激指は▲6六角(香取りを防ぐ)△8六飛成▲6八金△8九竜▲5八金というプロ筋の金寄せを披露した。なお、本譜は先手石田流VS後手居飛車穴熊の出だしで、この場面だけでなく仕掛けから終盤まで、先手石田流の指し回しが絶品だ。石田流党の方にはとても参考になると思う。

あいかわらず入玉が苦手

コンピュータ将棋が入玉形が苦手なのは相変わらずで、入玉するのも防ぐのもぎこちない。例えば決勝3回戦・ponanza−習甦戦(第4図)。

「▲9四歩から9筋を開拓しておけば入玉が約束されていた」(阿部四段)のだが、変に右辺から動いて桂を与えた挙句、▲8五歩と打ってしまい、結果的に自玉上部のスクラムが完全に残ったまま入玉できずに下から寄せられてしまった。このほか、決勝6回戦・ボンクラーズ−Blunder戦にて、ボンクラーズがBlunderの入玉を阻止できずに敗れる一幕などもあった。

ponanzaはそろそろ改名を考えるとき

このほかの見せ場として、ponanzaが決勝2回戦・VS激指戦にて「稲庭スペシャル」(第5図。後手側の布陣。歩を全く突かず、かつ各筋に巧みに2つ以上の駒を利かせながら待機している点に注目)を披露して会場を沸かせた。

相手の「激指」が稲庭対策をとっておらず、まんまとponanzaが時間切れ勝ちしそうだったが、結果は激指の残り時間が20秒のところでまさかの千日手。ponanza側が千日手回避思考を入れていなかったのが原因だった。
ponanzaは本局以外は正々堂々と戦い(稲庭スペシャルも立派な対コンピュータ戦術ではあるが)、2勝をあげている。立派な成績だ。ただここまで存在感を示し始めたからには、「Bonanza」と極めて似ていて紛らわしい名称を変更するべきだと思う。解説の先生方がコンピュータを勘違いする場面も何度かあった。

対男性プロ戦は今年あるのか?

優勝したボンクラーズでも2敗を喫しており、また最下位のYSSでも2勝をあげている。昨年に比べてトップの力は上がっているだろうにもかかわらず、これだけ拮抗したのは、全体的に非常にレベルアップしたからに他ならない。否が応にも対男性プロ戦の実施と結果が気になるが、はたして今年は行われるのだろうか?行われたとしても、清水市代女流プロとのリベンジマッチだろうか?
今回の会場には、途中米長邦雄会長が飛び入り参加し解説を一部行ったのだが、その中で阿部四段に対し、コンピュータ将棋と対局してみたいか問いかける場面があった。「新人王戦よりも賞金は弾むよ。」というリップサービス付きで。阿部四段は、明快な回答を避けたものの、否定もしなかった。はたして今後実現するのだろうか?
ちなみに、米長会長は自身のホームページで


■敵を知り、己を知る。(2011.4.25記)
コンピュータソフトと私が戦うとどちらが勝つんでしょう。激指10と秘かに戦ってみました。
どうも持ち時間の設定に鍵があるようです。
○一手10秒以内。これは私の勝率は20%くらいです。
○酒が入っているケース。全く歯が立ちません。
○一手30秒ずつ。実力伯仲です。

と述べている。また、会場にて実際に「激指10に対し10秒将棋で勝率2割ぐらい」と述べており、驚いたことにそれに対し阿部四段が「私もそのくらいです。」と相槌を打っていたのだ。すでに引退している米長会長と、新人王を獲得し、売り出し中の若手が同じ勝率なのだろうか?
また、NHK杯ルールくらいの持ち時間でこの決勝リーグに阿部四段が参戦したら?の問いに、阿部四段は「勝率6割くらいでしょうか。」と答えていた。この低さにも私は驚いた。
前者は、米長会長を立てたリップサービスで、後者は勝率を低く見積もった謙虚な数字を述べたのではないかと思う。ただ合わせて感じるのは、確かに男性プロでもコンピュータ将棋相手にもはや圧勝することはできず、紙一重であるということだ。

*1:ただし、寄せが見えたときには突然自玉を顧みない猛烈な攻めに転じる。例えば決勝7回戦・ボンクラーズ−ponanza戦など。

*2:決勝3回戦のBonanza戦で、△8六桂!▲同歩△同歩▲同銀のあと一転して△2二玉!と受けに回ったが、あれも受けのために一手稼いだ堅実な指し回し(次に▲8七歩ならもう一手受けることができる)なのではないかと勘ぐってしまう。

「第21回世界コンピュータ将棋選手権」開催

第16回アジア大会囲碁にて、切れ負け続出

今更ながら、第16回アジア大会囲碁にて、切れ負けが続出したことを取り上げておく。
2010/11/12〜27に中国・広州で開かれた第16回アジア大会にて、「囲碁」が競技の1つとなった。

「チェス」の中の「チェス/ウェイキ」というのが囲碁にあたる。余談になるが、囲碁は英語で「Go」だけでなく「ウェイキ(Weiqi)」とも呼ばれるそうだ。
この大会で用いられた対局時計は反応が悪いらしく、「ボタンの真ん中をまっすぐ下に押さないと、反応してくれないことがある」(後述の「メイエン事件簿」より引用)とのこと。

調査してみたところ、使われていたのは「全棋」というメーカーの対局時計のようだ。

これがチャイナクオリティーなのだろうか。にわかには信じがたい。ちなみに下記が現在日本で一般的に使われている「ザ・名人戦」だ。

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この対局時計も使い勝手は良いのだが、上述の「ボタン - 三村智保 囲碁blog」でも述べられている通り、これより前の世代の「DIT-10」はそれを上回る名器だったと思う。

最後まで戦い抜いてほしいコンピュータ将棋

さて、明日から3日間、「第21回世界コンピュータ将棋選手権」が早稲田大学・国際会議場にて開催される。

以前コンピュータ将棋選手権でも、決勝リーグ終盤の事実上の決勝戦(「激指」VS「棚瀬将棋」)にて、時間切れ負けというアクシデントが起きた。

また、アマ強豪VSコンピュータ将棋の対局にて、コンピュータがダウンするというアクシデントが起きたこともある。

人間戦でもコンピュータ戦でも、アクシデントで終局するのは悲しいし、後味が悪い。盤外では何の問題も起こらないことを期待したい。
ただし、相手の切れ負けを戦術に組み込んでいる稲庭将棋は除く。

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チェスの碁盤を模したケーキ

ダロワイヨ 銀座本店

銀座にある「ダロワイヨ(DALLOYAU)」というフランス菓子の店で、チェス盤を模したケーキを見つけた。

「レシキエ(L'echiquier)」という名前は、フランス語で「チェスの碁盤」という意味だそうだ。
ポーンを模した飾り2個も乗っていて面白い。

実際に購入したのは、テレビなどでも紹介されたことがある「シューキュービック」というシュークリーム(立方体の形状でこれまた見た目が面白い)と、アイスクリームを何点か。
レシキエもいつか試してみたい。

第16回コンピュータ将棋オープン戦にて、「大将軍」が優勝

「大将軍」初出場、初優勝

2011/04/09に行われた、第16回コンピュータ将棋オープン戦にて、初出場の「大将軍」が優勝した。

実績のある「GPS将棋」や、力をつけてきた「Ponanza」を破っての優勝。お見事。なお、「大将軍」開発者様のWebサイトは見つけられなかった。

第21回世界コンピュータ将棋選手権は5月3日〜5日

このオープン戦は、来月行われる第21回世界コンピュータ将棋選手権の前哨戦ともいえる。
オープン戦では参加チームが少なく、評価は難しいが、「大将軍」は上位に進出する力を見せつけたといえそうだ。

なお、昨夜「第21回世界コンピュータ将棋選手権」のWebサイトを訪れたときはダウンしていたが、現在は復旧している。

「久保の石田流」書評

久保利明二冠、初の石田流専門書

つい先週、

と2本のエントリーを書いた。
久保棋王・王将がダブル防衛を果たしたあと、昨年と一昨年の石田流はどんな形だったかなとふと思い、振り返ってまとめてみたわけだが、そのまとめ作業の最中、久保二冠が石田流のみを解説した棋書を発売することを知った。それが「久保の石田流」だ。先月末から発売開始している。

久保の石田流
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ダブル防衛戦にて、先手番で3局も石田流を駆使しすべて勝利、そしてダブル防衛を果たしたばかりであり、絶妙のタイミングでの棋書発売となった。
意外にも久保二冠にとってはじめての石田流専門書となる本書(ちなみに鈴木大介八段は現時点で3冊もの石田流専門書を著している)。早速買って読んでみたので、簡単に感想を述べたい。

「最強久保流振り飛車 さばきのエッセンス」三間飛車

本書は、「将棋世界」誌にて連載中の久保二冠の講座「最強久保流振り飛車 さばきのエッセンス」の、先手石田流および後手石田流の部分を加筆、修正し再構成したものだ。この講座については、過去に以下のエントリーで紹介した。そちらで書いた感想も、本書の内容の参考になるはずだ。

なおこの講座は現在も連載中で、先手石田流→後手石田流ときて現在はゴキゲン中飛車を解説している。
本書の目次を紹介しておこう。


第1章 石田流の入り口
第2章 升田式石田流の基礎知識
第3章 早石田定跡
第4章 鈴木流急戦
第5章 久保流急戦
第6章 その他の石田流
  後手の棒金戦法
  後手の左美濃
  後手の居飛車穴熊
  4手目△5四歩
第7章 後手の石田流
  後手の石田流
  2手目△3二飛戦法
第8章 最新の石田流
第9章 実戦編
  参考棋譜

「鈴木流急戦」とは、いわゆる「新・石田流 7手目▲7四歩」のこと(詳しくは『「新・石田流(7手目▲7四歩)」まとめ (特許明細書風)』などを参照)。そして「久保流急戦」とは、初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲4八玉△6二銀のところで▲7四歩(第1図)と突く急戦のことだ。第34期棋王戦・佐藤康光棋王(当時)戦の第2局でも現れた。

石田流の基礎知識から後手番石田流の2手目△3二飛まで、非常に幅広く解説されていることがわかる。そのぶん1章ごとのページ数は短めといえるかもしれない。
ただしその中身は非常に濃く、実戦で現れた手順が何度も登場する。ココセではなく、現時点での最善手の応酬手順が解説されているのだ。そのため、安易に石田流優勢としているわけではなく、形勢不明かやや不利かもしれない、と結論付けられている章すらある。
ここまで研究手順をさらけ出してしまってよいのか、と読んでいて心配になる箇所もあった。が、久保二冠にとっては、あくまでも現時点での研究結果を披露したのみという感覚であり、将来的に結論を覆したり、新手や新定跡を生み出せるという自信があるのではないだろうか。

加筆された「最新の石田流」と「実戦編」

本書は基本的には将棋世界の講座と同じだが、大きく異なるところが2点ある。それが第8章「最新の石田流」と第9章「実戦編」。
「最新の石田流」では、初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8五歩の局面で、
(1)▲7四歩△同歩▲4八玉
(2)▲7四歩△同歩▲5八玉
(3)▲7六飛
の3つの手順が紹介されている。(3)▲7六飛は第36期棋王戦・渡辺明竜王戦の第1局で現れた形であり、記憶に新しい。
解説についてはぜひ本書を参照されたい。なお、第35期棋王戦・佐藤康光九段戦の第3局で現れた▲4八玉△6二銀▲7六飛という手順の解説は見当たらなかった。


実戦編では7局の棋譜と解説が載っている。タイトル戦だけでなく、A級順位戦などの棋譜も載っており、相手はすべてトッププロだ。こんなぜいたくな実戦譜ばかりを集められる棋士はごくわずかだろう。

石田流党必読の一冊

月並みな言葉だが、石田流党にとっては買わない理由はないだろう。また、じっくりと待つノーマル三間飛車(ノーマル振り飛車)に飽きたり結果が出なかったりした方も、本書を読んで試してみてはいかがだろうか。


なお、流れからいって上述の連載講座のゴキゲン中飛車編をまとめた棋書もいずれ発売になるはずだ。はたしてタイトルは「久保の中飛車」になるか「久保のゴキゲン中飛車」になるか。「久保の石田流」の渋いカバーデザインを踏襲するとなると、前者のタイトルの方がマッチしているのではないかと個人的には感じる。