将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

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竜王戦:形勢判断ボード・改案

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形勢判断ボード

「形勢判断ボード」とは、第22期竜王戦の中継ブログ「竜王戦中継plus」の中に掲載されていたグラフ(下図)のことだ。

中継スタッフの方々の、中継をより良くしていこうという姿勢が感じられて、素晴らしい。
ここで、形勢判断ボードを見ていて、こうした方がもっと良くなるんじゃないだろうか、という改案があるので、紹介してみたい。

ポイント1:「攻撃力」「守備力」「駒の損得」の3要素とする

形勢判断ボードでは、はじめの図に示したとおり、形勢の判断を「駒の損得」「駒の働き」「玉の堅さ」の3要素に集約し、さらにそれらをまとめて「総合」として表記している。
だが、例えば69手目(第1図)の形勢判断ボードは下記のように表記されている。

せっかく3つの要素に集約したにもかかわらず、それら要素で形勢を表現することを放棄し、コメント付の総合評価のみで形勢判断を行っている。
集約した3つの要素で形勢を判断できないようでは、それは集約の仕方、すなわち採用した3要素が適切でなかったといえそうだ。
具体的に何が悪いか。それはおそらく「駒の働き」要素が中途半端でふさわしくない、と私は考える。
というわけで改案として、「攻撃力」「守備力」「駒の損得」の3要素とする案を提案する。「守備」と「攻撃」は双璧をなす。単純明快だし、両方ほしい。「駒の働きボーナス」、「手番を握っているボーナス」、「一手すきボーナス」、「相手陣に攻め駒が進入しているボーナス」などは、それぞれ「攻撃力」にどんどん加算していけばよい。
なお、囲いの基本ポイントは大雑把に下記の通り。

  • 穴熊
  • 美濃囲い、矢倉
    • 4枚:80点、3枚:60点、2枚:40点
  • 舟囲い
    • 3枚:40点、2枚:20点
  • 裸玉:0点

駒割については、「将棋スコアボードと駒割グラフ - 将棋思録〜あり得べき世界の、そのあり得べき理由について、問う。」の中で取り上げられている、「将棋に勝つ考え方」(谷川浩司九段 著)の駒割点数を採用してみる。
「総合」は、3要素の平均とする。

ポイント2:各形勢判断の和を100点固定にしないようにする

現状の形勢判断ボードは、パッと見味気ない。ボードを見ても、どんな戦型、状況なのかのイメージが湧くものとなっていない。
その原因として、各形勢判断の和が100点(100パーセント)に固定されていることが挙げられる。これでは、例えば玉の堅さについて、同形の相穴熊でも50:50、相居玉でも50:50になってしまうのだ。
例えば野球では、0:0と10:10では全然違う意味合いを持つ。すなわち「投手戦」と「乱打戦」の差だ。
また、各要素の総和が100点に固定されていると、「終盤は駒の損得より速度」といった状況(「駒の損得」バーの要素の重要度を下げ、「攻撃力」要素の重要度を上げたい)をうまく表現できない。各バーの右側に「×3」などと書いて重み付けを表現する案もあるが、なかなか意味が伝わらないだろう。
というわけで、和を100点に固定しないグラフを提案したい。こうすることで、ポイント1で述べた攻撃力ボーナスが終盤に向かうに従いガンガン加点されていく。これにより、駒の損得よりもスピード(攻撃力)が重要であることが、グラフを見て伝わってくるようになる。

グラフ改案の実例

ここまで述べた改案を取り入れた形勢判断ボード改案、例えば第1図の局面における形勢判断ボード・改案は以下の通りとなる。

後手・渡辺明竜王側の攻撃力は、一見ほぼ無仕掛けで低いようだが、△7五歩から△9三角という早い攻めがあるので高い(「手持ちの角」が、「駒の働き」パラメータを表現しているのでなく「攻撃力」に加算されている、と見ればよい)。先手・森内俊之九段側の守備力を上回っている。先手としては、守備陣に手を入れて守備力を上げる、という選択肢もあったが、勢い▲1五歩と仕掛けた、という局面といえる。
先手の攻撃力と後手の守備力が拮抗しており、先手が攻め切れれば(効率良く攻撃力の数値を上げていきつつ後手の守備力を削っていければ)良しとなる。

続いて、105手目(第2図)における例。


手番ボーナスがあり、さらにはそのまま必至形に持ち込めるので、後手の攻撃力はもっと上げてもよいかもしれない。攻撃力については、総合評価が適切な値となるよううまく調整してしまって構わないと思う。
さて第2図から、後手は必至をかけつつ7八の金を抜き、自玉の詰めろを回避する手順があった。すなわち、攻撃力を高めながら守備力も上げることができたはずだった(「攻撃は最大の防御」とはよくいったものだ)。形勢判断ボード上、みるみる後手の総合評価が上がっていただろう。
しかし実際には△4三銀としたため、守備力を大きく高めはしたが銀を手放したため攻撃力がダウンし、もつれることとなった。

こんな説明がうまく付くグラフになっているのではないかと思う。図は省略するが、新人王戦第1局・▲中村太地四段VS△広瀬章人五段戦のような、居飛車VS振り飛車対抗形相穴熊の戦型においても、結構適切な形勢判断ボードができると思う。穴熊は堅く(100点位)、馬や竜を作っても攻撃力がこれを上回ることができないので、と金や桂で攻撃力をぐんぐん上げた後、満を持して守備力を削っていく展開などが表現できる。
まだいろいろな対局に適用して試してみたわけではないので、全般的にこんなに都合よくいくのかわからない(できれば個人的に今後調査してみたい)が、少しでも参考になれば幸いだ。

2009/10/21追記

後手が7八の金を抜き自玉の詰めろを回避する手順は、後手玉の陣形は変わらないので後手の守備力は変わらないが、詰めろを解除することで先手の攻撃力に含まれる「詰めろボーナス」分を削ることができる、と解釈した方が正しいか。訂正。なかなか考え方が難しい。