NHK杯:谷川流石田流、不発
第59回NHK杯、▲谷川浩司九段VS△糸谷哲郎五段
2009/09/20に行われたNHK杯、▲谷川九段VS△糸谷五段戦。結果は糸谷五段の勝ちだった。初手合での勝利。
この序盤戦について、少し補足させていただく。
谷川流
初手から、▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲7八飛(第1図)と進み、以下先手・谷川九段は石田流に組み換えた。
▲7六歩△3四歩に対する3手目▲6六歩が珍しく、谷川九段に限らず居飛車党は大半が▲2六歩だろう。以下角換わり系の将棋か横歩取り、相手が振り飛車党ならば対抗形となる。
ただ実は、採用数は少ないものの、谷川九段はこの3手目▲6六歩以下の構想を明確に1つのオプションとして用いている。すなわち、初手▲7六歩△3四歩▲6六歩以下、
という構想だ。先日当ブログでとりあげた*1「将棋世界」2009年10月号の講座「突き抜ける!現代将棋」(講師:勝又清和六段)などで「谷川流」として紹介されている。
本局の解説者だった久保利明棋王は、谷川九段、山崎隆之七段、畠山鎮七段、そして久保棋王の4人で通称「谷研」と呼ばれる研究会を行っていること、そしてその研究会でも実戦でも谷川先生の振り飛車は珍しい(ただし本局の構想はときどき指す)、というエピソードを披露してくれていて、参考になって良かった。それに加えて、この辺りの「谷川流」の序盤まで解説してくれたら、多くの将棋ファンが序盤構想の奥深さを知り、より将棋を、番組を楽しめたかもしれない。・・・と思うのは定跡バカだけか。
穴熊へのリフォーム
脱線して、糸谷五段についても触れておく。
本局における糸谷五段の囲いのリフォーム構想と感想戦でのコメントには驚かされた(特に後者)。
第2図で左銀が1三にいるのは、もともと銀冠で2三にいた銀が▲2五歩〜▲2四歩△同銀▲2五歩△1三銀とへこまされたため。これは先手作戦勝ちだろうと思っていたら、ここから△4四歩として戦いの流れを緩め、第3図のように穴熊への組み換えを間に合わせてしまった。さらに第3図以下、▲7七桂と指せばさらに穏やかな流れが続いた(感想戦より引用)だろうが、▲3九銀としてしまったため、△6五歩から終始一方的に後手が攻め続け、勝ち切ってしまった。
序盤戦、意外とスラスラと手順が進んだため、糸谷五段は△1三銀とへこまされることも、穴熊への組み換えも研究手順内だったのだろうか、と感心していたら、感想戦でのあっけらかんとしたコメントには意表を突かれた。
「仕掛けないと、どんどん作戦負けになってしまうと思ったので。」
「(序盤戦について)ちょっと悪いと思っていたんですけど。」
谷川九段も1つ目のコメントに対し「そうですね。」と返していた。2つ目のコメントには苦笑していた。「悪くなる前に工夫しないとだめだよ」という思い(期待)が込められていたのかもしれない。
というわけで、研究手順ではなく、かつ振り飛車十分だったようだ*2。ただ、最近の棋士は穴熊への組み換えの意識が高い。うまく組み換えて、作戦負けの差を広げさせなかった。糸谷五段がそれを考えはじめたのはどの辺りだったのだろうか。▲2五歩と仕掛けられた37手目辺りだろうか。本局の詳しい解説と棋譜は、「将棋講座」テキスト11月号に掲載予定とのこと。
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糸谷哲郎五段の序盤戦術
糸谷五段は、NHK杯1回戦でも中田功七段のコーヤン流三間飛車に対してあっさりと作戦負けしていた*3。この先糸谷五段がより上を目指す場合、序盤戦を改善する必要があるのかもしれない。「将棋世界」2009年7月号に掲載された特集「関西若手四強を語る」(『「将棋世界」2009年7月号に、関西若手四強の特集』など参照)の中で、橋本崇載七段も下記のように糸谷五段を評していた。
将棋が粗いということでいえば、序中盤の一局の命運を託すような手でも、彼の場合は時間を使わずにヒョイと指す。当然、作りの悪い苦しい将棋が多くなるわけです。(中略)
彼がここから先の上のステップを目指すのに、ここまで荒々しくて大丈夫なのかという心配はあります。