将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

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三間飛車+藤井システム=久保システム?

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NHK杯・佐藤天彦五段VS久保利明棋王戦

8月30日に放送された、NHK杯将棋トーナメント・佐藤天彦五段VS久保利明棋王戦。
先手・佐藤五段の3手目▲6八玉(久保棋王のゴキゲン中飛車封じ)にも少し驚いたが、なによりその後に後手・久保棋王の見せた構想がかなり衝撃的だった。それが第1図。

そう、居玉のまま堂々と△7四歩〜△6四歩と突いていったのだ。左銀は△4三銀型であり、△5三銀型をとる「中田功XP」(「島ノート 振り飛車編」参照)のような対居飛車穴熊強襲構想とも異なる。
四間飛車ならば、いわゆる「藤井システム」的な布陣であり見慣れているのだが、三間飛車でこの6・7筋の突っ張りは相当珍しい。四間飛車ならば、△4五歩から△4六歩を見せて揺さぶりをかけることができるが、三間飛車にはそれがない。(居飛車から見て)左辺から反発されたら、もろにその左辺で戦うしかない。
もちろんそれに見合うメリットがないと、三間飛車と藤井システムを組み合わせようとは考えないだろう。そのメリットについて、Twitter上で@itumon氏が解説しているので、引用させていただきます。

居飛車側に穴熊ではなく急戦で来られると、主戦場はやはり2筋から5筋。今度は藤井システムの居玉が裏目になります。特に後手藤井システムではそれが顕著で、後手システムは「どうも難しい」という事で激減しました。
そこで久保棋王のようにあらかじめ3筋に振っておくと、▲居飛車から急戦で来られても一手受けが早くなっています。また先手が十分に警戒して穴熊に組もうとすると△6二飛と回られます。これは藤井システム△4三銀型と同じ動きですね。その辺りに久保棋王の工夫を感じています。

「あらかじめ3筋に振っておくと、▲居飛車から急戦で来られても一手受けが早くなっています。」の意味を説明しておくと、対急戦で四間飛車側は飛車を4二から3二へ振り直して受けるのが常套手段だが、この一手が不要、ということだ。

さて第1図以下、佐藤五段は玉を堅く囲うべく、反発せず局面を落ち着かせる構想を選んだ(第2図)。が、久保棋王がそれを許さなかったことは放送をご覧になった方々にはご存知の通り。そして、久保棋王が見事な寄せを見せて勝ったことも。
詳しい解説はNHK将棋講座テキスト(本局は10月号に掲載)を待つこととしよう。

順位戦B級1組・深浦康市王位VS久保利明棋王戦

実は久保棋王は、8月28日に行われた順位戦・VS深浦王位戦でも同じ構想を採用している(第3図)。NHK杯は録画なので、実際には順位戦のほうが後に行われたことになる。

本譜では、第3図以下先手・深浦王位が6・7筋から反発した(この辺り、若手棋士と30代の棋士の将棋感の違いが現れているともいえそうだ)ため、激しい将棋となった(第4図)。この第4図はまだまだ序の口。この後終局近くまで、すさまじい玉頭戦が繰り広げられることになる。上述の通り、終始左辺での戦いとなった。
結果はというと・・・見事久保棋王の勝ち。強い。

久保システムは定着するのか

これまで私は、このような「三間飛車+藤井システム」の構想をプロ棋士が用いているのを見たことがなかった*1。もしかして誰かが愛用しているのかもしれないが、ひとまずこの構想を本ブログでは「久保システム」と命名しておこう。
2局とも久保棋王に凱歌があがったが、必ずしもずっと久保棋王が優勢だったとはいえなかったはずだ(私の棋力では断定できないが)。どちらの対局でも、久保棋王の中・終盤力が光ったように見える。よっぽど腕力がないと指しこなせないかもしれない。生半可に真似をすると痛い目に会いそうだ。
もっとも、これは定跡化が不十分だった初期の頃の藤井システムにもいえたことだ。今後も久保棋王が本システムを採用するのか、結果は幸いし続けるのか、定跡化が進んでいくのか、etc・・・。楽しみに見守るとしよう。

2009/09/03追記

「週刊将棋」2009/09/02号によると、順位戦のほうの第4図以降は終始久保棋王が良かったようだ。もし居飛車からの反発が無理だとしたら、この構想は本当に十分成立しているのかもしれない。

2010/05追記・・・「三間飛車藤井システム」

各種将棋雑誌での記載から察するに、本システムは、「三間飛車藤井システム」という名称で定着しそうだ。

*1:ちなみに平成21年度の将棋年鑑を先日購入したが、まだ一局も並べていない(苦笑)。