将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

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第80期棋聖戦:羽生棋聖防衛と、コンピュータ将棋活用の可能性

横歩取り後手番で快勝

既報の通り昨日、第80期棋聖戦にて、羽生善治棋聖木村一基八段を下し、棋聖位を防衛した。
「第80期棋聖戦五番勝負第5局」


羽生善治棋聖(38)=名人・王座・王将=に木村一基八段(36)が挑戦していた産経新聞社主催の将棋タイトル戦「第80期棋聖位決定五番勝負」の第5局は、17日午前9時から愛媛県松山市道後温泉「宝荘ホテル」で行われ、午後6時43分、106手までで後手の羽生が勝ち、対戦成績を3勝2敗として棋聖を防衛した。これで棋聖は通算8期、タイトルは通算74期となった。

第1図は後手・羽生棋聖が△4五桂と跳ねた場面だが、木村挑戦者は感想戦で「△4五桂のときは、すでにもうかなり苦しいと思っていた」と述べている。確かに、以下の具体的な勝ち手順までは我々アマチュアには見えないものの、玉の堅さと何より先手陣右辺の壁のために後手優勢であろうことは想像に難くない。

将棋の内容については、この位にしておく。

コンピュータ将棋を取り入れた観戦記

今回取り上げたかったのは、梅田望夫氏(id:modernshogi)の「棋聖戦中継 plus: 梅田望夫氏、棋聖戦第5局リアルタイム観戦記」についてだ。
氏は毎回「テーマ」を持ってリアルタイム観戦記に望まれており(と感じる)、例えば棋聖戦第1局では「ねじり合い」と、プロ棋士解説(深浦康市王位、藤井九段ら)のフル活用(他にも「世代間抗争」など細かい要素はちりばめられているけれども)。下記は第1局の観戦記だ。今回の第5局に比べ、プロ棋士の解説をふんだんに文字に起こし、「ねじり合い」や「大局観」について説明されているのがわかる。プロでも評価や主張がいろいろ分かれるものだな、と感心しながら読ませていただいた。


ちなみに今日は、将棋連盟と産経新聞社がネット中継を共催することになった記念すべき第一局である。とても贅沢なことに、深浦王位がネット中継の解説だけのために将棋連盟からここ新潟に派遣されているのだ。
しかも、棋譜中継のコメント入力は「烏」こと後藤元気(ごとげん)さん。後藤さんは観戦記者でもあり、「高勝率者同士の対決」という羽生木村戦の観戦記も過去に書かれている。興味のある方はグーグル検索して読んでみるといいと思う。控え室には青野九段、藤井九段、飯塚六段、深浦王位が揃い、彼らの情勢判断や手の意味の解説や「次の一手」予想などは、後藤さんがリアルタイムで棋譜コメントとして入力していってくれる。

そして今回の第5局では、テーマは「コンピュータ将棋」。


「コンピュータ将棋には指せない手を指す」ことができるのは、トッププロの大局観ゆえのものであろう。棋聖戦第一局は、奇しくも、トッププロ間で大局観が大きく割れるという将棋でもあった。
今日は丸一日、勝又さん、そして立会人の屋敷さん、ネット解説担当の三浦さんらも交え、トッププロの大局観をテーマに、コンピュータ将棋の大局観(形勢判断の評価関数やその学習機能)とも対比させながら、第五局を見つめてみたいと思う。まもなく始まる棋聖戦第五局の将棋は、果たして、そんな思考を巡らせるに適した将棋になるだろうか。

無機質なコンピュータ解説

私自身、2008/06/02のエントリーで下記のように述べており、コンピュータ将棋によるライブ解析を取り入れる案を提案していた。この実現に少し近づいた感じだ。


コンピュータ将棋による形勢判断
ライブ中継局面画面や中継ブログだけでなく、時の最強コンピュータ(もちろんコンピュータ将棋選手権仕様の最強スペック)による形勢ライブ解析画面も載せる。

ただ結論から言えば、個人的には今回の解説は第1局よりも魅力は少なかった。終盤で力を発揮するコンピュータ将棋にとって、形勢がはっきりしてしまった本局は力を出せなかったという不利な面もあった。だが根本的に、現状のコンピュータ将棋の解説は、ご覧の通り「解説」ではなく形勢の評価値と読み筋紹介でしかない。これを人間が書く中継ブログに組み込んだとき、ちょっと興ざめしてしまう感覚を受けた。

上記の通り、私の提案は

ライブ中継局面画面、中継ブログとは独立して、コンピュータによる形勢ライブ解析画面を載せる

というものだ。前者2つは、これまで通り人間の手により充実させる。新たに追加する後者は、別ウィンドウでコンピュータが勝手に解析・表示し続けているイメージ。そうすれば、興味の無い人(またはコンピュータの読み筋を見ると興ざめしてしまう人)は後者を見なければよい。現在のコンピュータの可能性をウォッチし続けたい人は要注目、というスタンスだ。
さらに、コンピュータの解説内容についても要望を書いておく。
いろいろな評価値を元に局面の優劣および指し手を決めているのだろうから、「この局面では、駒の損得よりもスピードを重視し、攻めの手を指すことをお勧めします。具体的には〜」というような自然文の解説を自動的に生成できるようにするとより面白いかもしれない。これは市販のコンピュータ将棋ソフトにも当てはまる課題だ(もう実現されていたらすみません。私の勉強不足です)。

梅田氏の挑戦に拍手

今回のように「コンピュータ将棋の解析内容を大々的に載せてみる」という挑戦をした梅田氏には大いに拍手を贈りたい。将棋界内部の方々には、なかなか抵抗があって手が出せないことだったと思う。
それに挑戦し、課題が見えたことで、次回以降にも間違いなく活用できることだろう。
益々のリアルタイム観戦充実に期待したい。ちなみに大盤解説も非常に充実してきているので、これにもいずれ参加してみたい(過去一度だけ参加経験がある)。