将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

「久保の石田流」書評

久保利明二冠、初の石田流専門書

つい先週、

と2本のエントリーを書いた。
久保棋王・王将がダブル防衛を果たしたあと、昨年と一昨年の石田流はどんな形だったかなとふと思い、振り返ってまとめてみたわけだが、そのまとめ作業の最中、久保二冠が石田流のみを解説した棋書を発売することを知った。それが「久保の石田流」だ。先月末から発売開始している。

久保の石田流
久保の石田流久保 利明

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ダブル防衛戦にて、先手番で3局も石田流を駆使しすべて勝利、そしてダブル防衛を果たしたばかりであり、絶妙のタイミングでの棋書発売となった。
意外にも久保二冠にとってはじめての石田流専門書となる本書(ちなみに鈴木大介八段は現時点で3冊もの石田流専門書を著している)。早速買って読んでみたので、簡単に感想を述べたい。

「最強久保流振り飛車 さばきのエッセンス」三間飛車

本書は、「将棋世界」誌にて連載中の久保二冠の講座「最強久保流振り飛車 さばきのエッセンス」の、先手石田流および後手石田流の部分を加筆、修正し再構成したものだ。この講座については、過去に以下のエントリーで紹介した。そちらで書いた感想も、本書の内容の参考になるはずだ。

なおこの講座は現在も連載中で、先手石田流→後手石田流ときて現在はゴキゲン中飛車を解説している。
本書の目次を紹介しておこう。


第1章 石田流の入り口
第2章 升田式石田流の基礎知識
第3章 早石田定跡
第4章 鈴木流急戦
第5章 久保流急戦
第6章 その他の石田流
  後手の棒金戦法
  後手の左美濃
  後手の居飛車穴熊
  4手目△5四歩
第7章 後手の石田流
  後手の石田流
  2手目△3二飛戦法
第8章 最新の石田流
第9章 実戦編
  参考棋譜

「鈴木流急戦」とは、いわゆる「新・石田流 7手目▲7四歩」のこと(詳しくは『「新・石田流(7手目▲7四歩)」まとめ (特許明細書風)』などを参照)。そして「久保流急戦」とは、初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲4八玉△6二銀のところで▲7四歩(第1図)と突く急戦のことだ。第34期棋王戦・佐藤康光棋王(当時)戦の第2局でも現れた。

石田流の基礎知識から後手番石田流の2手目△3二飛まで、非常に幅広く解説されていることがわかる。そのぶん1章ごとのページ数は短めといえるかもしれない。
ただしその中身は非常に濃く、実戦で現れた手順が何度も登場する。ココセではなく、現時点での最善手の応酬手順が解説されているのだ。そのため、安易に石田流優勢としているわけではなく、形勢不明かやや不利かもしれない、と結論付けられている章すらある。
ここまで研究手順をさらけ出してしまってよいのか、と読んでいて心配になる箇所もあった。が、久保二冠にとっては、あくまでも現時点での研究結果を披露したのみという感覚であり、将来的に結論を覆したり、新手や新定跡を生み出せるという自信があるのではないだろうか。

加筆された「最新の石田流」と「実戦編」

本書は基本的には将棋世界の講座と同じだが、大きく異なるところが2点ある。それが第8章「最新の石田流」と第9章「実戦編」。
「最新の石田流」では、初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8五歩の局面で、
(1)▲7四歩△同歩▲4八玉
(2)▲7四歩△同歩▲5八玉
(3)▲7六飛
の3つの手順が紹介されている。(3)▲7六飛は第36期棋王戦・渡辺明竜王戦の第1局で現れた形であり、記憶に新しい。
解説についてはぜひ本書を参照されたい。なお、第35期棋王戦・佐藤康光九段戦の第3局で現れた▲4八玉△6二銀▲7六飛という手順の解説は見当たらなかった。


実戦編では7局の棋譜と解説が載っている。タイトル戦だけでなく、A級順位戦などの棋譜も載っており、相手はすべてトッププロだ。こんなぜいたくな実戦譜ばかりを集められる棋士はごくわずかだろう。

石田流党必読の一冊

月並みな言葉だが、石田流党にとっては買わない理由はないだろう。また、じっくりと待つノーマル三間飛車(ノーマル振り飛車)に飽きたり結果が出なかったりした方も、本書を読んで試してみてはいかがだろうか。


なお、流れからいって上述の連載講座のゴキゲン中飛車編をまとめた棋書もいずれ発売になるはずだ。はたしてタイトルは「久保の中飛車」になるか「久保のゴキゲン中飛車」になるか。「久保の石田流」の渋いカバーデザインを踏襲するとなると、前者のタイトルの方がマッチしているのではないかと個人的には感じる。