将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

「西の王子」山崎隆之七段、王座戦挑戦者に

第57期王座戦挑戦者決定戦にて中川七段に勝利

本当に長かった。山崎隆之七段が、ついに7大タイトル戦の舞台に登場する。
2009/07/27に行われた中川大輔七段との挑戦者決定戦に勝利し、王座戦挑戦者となったのだ。

第1図は、後手・中川七段が4一の玉を3一に寄った局面。△4一歩を作る早逃げで、急に玉が堅くなったと高評価された一手だ。しかし、ここから山崎七段がそれを上回る寄せの構想を披露する。

第1図以下の指し手
▲2三歩  △同 金  ▲4四歩  △5四銀
▲8八角  △2二玉  ▲5三歩  △同 歩
▲5五歩  (第2図)

垂れ歩を中心とした歩の乱舞。第1図の前数手と第2図の後数手も含め、相手に攻めさせて手に乗って受けた着手以外は、ほとんど歩しか動かしていない。
棋譜と詳しい解説は、王座戦のサイトを参照あれ。

「西の王子」

山崎七段は数多くの奔放で面白いエピソードを持った、花のある棋士だ。下記のWikipediaを読めば、そんなエピソードを垣間見ることができる。


渡辺明とはライバルとされ、東の渡辺、西の山崎と言われたこともあった(東の魔王、西の王子とも)。

上記ページで取り上げられていないエピソードで、私の印象に未だに強く残っているのは、2003年8月に行われた第16期竜王戦決勝トーナメントでの谷川浩司王位(当時)との一戦だ(第3図)。

山崎五段(当時)は、直前の22連勝とあわせ23勝1敗という絶好調の状態で谷川王位との対局に挑んだ。が、第3図で△6六馬と指し寄せ間違い、大逆転負け。△7七金という「初段あれば指せる金」(山崎五段の感想戦でのコメント)を感想戦で指摘され、あぐらのままばったりと後ろに倒れこんだ。神様・谷川を目の前にして、である。このときの見事な写真が、「将棋世界」2003年10月号に載っているので、捨てずに所有している方は引っ張り出してきて読んでみるとよいかもしれない。私も久々に読んでみて面白かった。

勝ち方の効率が悪い

この号では、「気鋭ジャーナリストの核心インタビュー 棋士達の真情」(記・撮影/炬口勝弘氏)にも山崎五段が登場している。この時点で新人王戦優勝、王位リーグ入り、全日本プロベスト8、早指し新鋭戦優勝など数多くの実績を残していながら、山崎七段は「不十分」と自己分析している。それは、常に比較され続けてきた「東の魔王」渡辺明五段(当時。現竜王)が、同時期にそれよりも勝る結果を残していたからだ。山崎五段は以下のように語っている。

僕の連勝もみんな予選ですから。いろんな棋戦の予選が多いですから。勝ってる勝ってると言われますけど、プロの世界は、やっぱり勝率や勝数じゃなくて、どこで勝つかっていうのが力なんで、そういう意味では全然全然なんですよ。(中略)
ま、大事なとき、大事なところで、朝日オープン(2003年、ベスト4で羽生名人(当時)に敗れた)、ああいうところで連勝ストップしないように。ええ、それは実力の世界なんで、自分が負けたら弱いんでしょうがないんですが。

一方で渡辺五段はこの年王座戦挑戦者となり、さらに山崎五段との実績で差をつけたのだった(結果は羽生王座防衛)。山崎五段は、「渡辺君は効率がいい」と半分冗談で嘆いていた。

『山崎物語』はこれから始まるのか

上記「棋士達の真情」は、以下のような言葉で締めくくられている。

そして、渡辺五段が、王座戦史上最年少19歳の挑戦を決めた夜は、深夜まで、打ち上げの宴席に同席していた。
「この前、初めて生・谷川見ましたよ。オーラがあって凄かった。あこがれの棋士でしたから・・・」
と渡辺が言えば、
「僕も、生・羽生見たときはそうでした」
と山崎。
新しい時代の夜明けかもしれない。
『山崎物語』はこれから始まる。

あれから、6年弱。誰がこんな状況を予想していただろうか。今回の王座戦挑戦者決定戦の解説にあるように、

山崎の通算成績は368勝165敗(0.690)。500局以上指している現役棋士の中では、羽生名人(0.723)に次いで通算勝率2位。

と山崎七段は長期にわたって十分勝っている。が、未だに「効率」が変わっていないのだ。

しかし眠れる獅子は、自身が若手と呼ばれなくなった今、新たな若手らの活躍によって目を覚ましつつある。「将棋世界」2009年7月号の「橋本・村山の順位戦大予想!」B級1組予想にて、橋本崇載七段はこんなことを語っている。

彼は去年の開幕前、村田顕弘君に棋王戦で負けたのを境に不調になったのではないかと見ています。最近は関西若手が注目されているけど、彼からしてみたら「負けられない」という思いでしょう。それだけにショックだったと思う。でも最近、関西将棋会館ではいつ見ても将棋を指していますし、相当な危機感を持ってやっていることは間違いない。

まさにこの姿勢が結果に結びついた、と考えられそうだ。なおこの「将棋世界」2009年7月号には、関西若手四強の特集も載っていて、見ごたえがある(『「将棋世界」2009年7月号に、関西若手四強の特集』参照)。

奇しくも、ライバル・渡辺明竜王竜王の一冠で足踏みしている(防衛し続け、永世竜王に輝いてはいるものの)。そして奇しくも、山崎七段の初タイトル戦は、渡辺五段(当時)と同じく王座戦。その先には、羽生王座が相変わらず、17年間も立ちはだかっている。
本タイトル戦の結果はともかく、今後の山崎七段の「運命に導かれた」活躍、そしてそれに触発された渡辺竜王の更なる活躍により、未だ実現していないタイトル戦の舞台での「王子VS魔王決戦」が実現したとしたら、将棋ファン垂涎であろう。

今度こそ機は熟した、のだろうか。そう願いたい。