将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

衝撃の後手番猫だまし(2手目△3二飛)戦法

 2008年1月に行なわれた順位戦A級、▲木村一基八段VS△久保利明八段戦にて、初手▲7六歩に対して2手目△3二飛が飛び出した(第1図)。

 筆者ホームページ「三間飛車のひとくちメモ」内の「猫だまし戦法(初手▲7八飛戦法)講座 -第5章 第1節-」にて、「おまけ・後手番猫だましの是非」と題し、初手▲7六歩に対する△3二飛は成立しない、と述べてしまっていただけに、個人的にその衝撃は非常に大きかった。
 実戦は、△3二飛以下▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二玉▲4八銀△3四歩▲2六歩△3五歩(図省略)と進み、普通の先手居飛車VS後手升田式石田流の戦いとなった(結果は後手久保八段の勝ち!)。△3二飛以下直ちに▲2六歩〜▲2五歩と進めても先手は思うような戦果を挙げられないそうで、木村八段の受けてたつ棋風も合わせ、無難な序盤戦に落ち着いたようだ。
 さて、では実際に△3二飛以下▲2六歩〜▲2五歩と進めた場合、どのような展開となるのだろうか。最近の「週刊将棋」、「将棋世界」やインターネットで、本局の情報を調べたものの、明快な手順が紹介されているものは無かった。僭越ながら私の棋力で検討してみたい。
 根底にある構想は、最近の佐藤康光先生に代表される、「後手番なので多少の無理や乱戦気味は承知で序盤構想を組み立てる」というもののようだ。また具体的には、角交換からの▲6五角打(8三と6三への成りを見せる)への抵抗感が薄れていることが2手目△3二飛の発見につながっている。すなわち最近の新手で、「康光流ダイレクト向かい飛車(角交換ダイレクト向かい飛車)」がある。これは、2八飛・7七銀の形で、6八に途中下車することなくいきなり▲8八飛と飛車を回る手である(参考図参照。2007年2月NHK杯決勝・▲佐藤康光VS△森内俊之戦(敬称略)より)。

△4五角が見えているので今まで誰も指せなかったが、実際には△4五角には▲3六角と合わせ、以下△6七角成には▲5八金右(左)で馬が死んでいる。詳しくは「将棋世界」2007年9月号を参照下さい。
 この構想を発展させたのが2手目△3二飛戦法である。具体的な手順の説明に入ろう。△3二飛以下▲2六歩△6二玉▲2五歩に、このタイミングで△3四歩(第2図)!

 △3四歩の代わりに△7二玉では、以下▲2四歩△同歩▲同飛で後手つぶれている(詳細は、先ほども述べた「猫だまし戦法(初手▲7八飛戦法)講座 -第5章 第1節-」参照)。

 第2図以下、まず▲2四歩には△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△3三角▲2八飛△2六歩(変化1図)。

 変化1図以下、▲6五角と打つと△2二飛とされ、△2七歩成と△8八角成両方を受ける手段が無く後手良し。したがって▲7七桂(銀)とするよりない。続いて後手は△2二飛と寄る(△7二玉だと▲2六飛とされてしまう)。歩を成られてはまずいので▲3八金(銀)。ここで後手は△7二玉とし、結局よくある形となる。後手番としては不満の無い戦いだろう。

 第2図以下、続いて当然懸念される▲2二角成△同銀▲6五角の筋だが、ここで先ほど述べた△7四角(変化2図)が登場する。

 ▲7四同角と取ると何のために角を打ったのかわからないので▲4三角成。以下ダイレクト向かい飛車のときと同様△5二金右だと、▲3二馬△同金▲4八銀で角成りが受けられてしまうのでまずそうだ。以下△5五角としてもじっと▲9八飛と打たれ、3筋の歩が3四までしか伸びていないため追撃が無い(3五まで伸びていれば、△3六歩からの飛車のコビン攻めが厳しそう)。
 そこで、▲4三角成には後手も△4七角成とする。以下▲3二馬△同金▲4一飛には△4二角と打って問題無い(▲2一飛成には△3一金)。手順中▲4一飛のところ▲4四飛のように下から打たれるとお互い馬と竜を作りあう展開となるが、これは一局ということか。戻って△4七角成以下▲5八金右には△7四馬と引いておき、以下▲4八飛には△4二歩と催促して問題無さそうだ。また△4七角成以下直ちに▲4八飛には、△同馬よりも△4六歩が勝りそう(△2九馬は、▲6一馬△同玉▲4一飛成とされて論外)。

 以上で後手番猫だまし(2手目△3二飛)戦法のプロ実戦譜とその考察を終える。続報が入手できたら、また報告するかもしれない。(また実戦で現れることを期待したい。)


2008/03/06追記:
最近発売された「将棋世界」2008年4月号で、本戦法の特集が組まれた。「2008/03/06のエントリー」へ続く。


2008/04/03追記:
そもそも、激戦の変化の選択肢を先手に与えてまでして、なぜ後手が2手目△3二飛とするかというと、それは一手損覚悟の「3・4・3戦法」(「(升田式)石田流のひとくちメモ -予備知識- その2 『3・4・3戦法』」参照)を用いることなく、手損しないで(升田式)石田流を目指せるメリットがあるからである。

2008/04/28追記:
当エントリーも含め、本ブログ上で数回にわたり取り上げてきた2手目△3二飛戦法について、最終的に2008/04/04のエントリー「2手目△3二飛戦法 まとめ(特許明細書風)」にまとめた。