将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

くじら

id:yaneuraoさんの8/23のダイアリー「子供から、想像力を奪わないで!」論議が大変盛り上がっている(コメント制限数に到達したらしい)。話題のCMは下記の通り。


公共広告機構:みんなの心に浮かんだことをそのまま描けばいいんだからね(仮名称)
http://pya.cc/pyaimg/img/2003121112.wmv

教育論や精神論について、過去ログを見るのも面倒だし、自分と同意見のものも挙がっていると思うので、それについては私は何も述べない。
それ以外に興味深いのは、「CMで描かれている天才君の、くじら描画における構想手順と創作手順」および、「CMクリエータの構想」である。あのCMを作ったクリエータは、CM内の仮想世界の「創造神」といえる。

まず、天才君の「構想」についてである。美術の授業中に「自由に絵を描け」とテーマを与えられているので、事前に(自宅で)完成図のスケッチなどは用意していないはずである。また、授業中テーマをもらった直後、教室で完成図のスケッチを描いていたら、すぐさま教師に気付かれるのでそれもないだろう。したがって頭の中で完璧に構想はできていたはず。

次に創作(描画)手順であるが、まず推測されることは、序・中盤はくじらの輪郭部を描かず、完全に黒で塗りつぶした絵が続いた、ということだ。ずーっと真っ黒の絵が続き、「この子はおかしい」と人々が完全に先入観を固めた時点で、白が含まれる絵が出てきたと考えられるからだ。ここで、普通は白交じりの絵が現れた時点(輪郭部の割合から察するに、全体の8割がた描画を終えた頃か)で、何かの意図を人々はすぐさま察するはずなのだが、「創造神」CMクリエータは、「とても鈍感で間抜けな人々がすむ街」という世界観の設定を与えたのだろう。加えて、CM中天才君が黒ばかり描く映像しか出さないのは、視聴者に上記事実を気付かせない(「真っ黒」画以外も描いているという点をぼやけさせる)ためであろう。

上記のように序中盤は完全黒が続いたと考えられるので、突き詰めれば『天才君は構想段階で「真っ黒」は何枚必要かを完璧に把握し、「真っ黒」を始めに一気に書き上げた。そして「真っ黒」が終わったら、連続して輪郭部を書き上げた。』のではないかと想像がつく。これは作業効率的にもすばらしい。しかも一度も並べず結合テストもせず、これを行なってしまうのは「天才」の名にふさわしい。しかし、実はラストの一枚はCMのとおり「真っ黒」である。これでは天才像が崩れてしまう。実はこれには、「創造神」CMクリエータの「事情」が見えるので後述する。

最後にCMクリエータの構想について述べてまとめる。CMクリエータとしては、映像のわかりやすさ・美しさのために、くじら全体図の最後の1枚では、真ん中を埋めたいと考える。真ん中を埋めるためには、「真っ黒」の絵でなくてはならない(真ん中には当然輪郭がないから)。ここで2つの問題が発生する。すなわち以下の点である。


  • 最後に真っ黒を描かせてしまうと、上記の「天才像」が崩れる。

  • 輪郭以外はすべて「真っ黒」の絵であるので、並べる人々は、最後の「真っ黒」画を真ん中(腹部)にする必要はない。現実的には、置きやすいよう端っこを空けておくはず。
前者解決のために、CMクリエータは泣く泣く天才を少し凡才にするしかなかった。だが、このおかげで、CM最後に天才君が誇らしげに「真っ黒画」を掲げる映像が流せたわけだ(白交じりの絵を描く映像は、最初に述べたように映してはならない)。最後に真ん中を埋めることによる副産物ともいえる。
後者解決は簡単である。というかもう解決している。上記のように、「とても鈍感で間抜けな人々がすむ街」として設定しているからだ。
映像クリエータは、どんな世界も作れる。一見普通のようで、ねじ曲げられた世界も中にはある。CMしかり、テレビゲームしかり。その影響力は絶大である。その分、良質なものを製作する義務があろう。また、「創られた世界」を、「創られた世界におけるものさし」と「現実のものさし」両方で冷静に見れる見識をこちらも持たねばなるまい。バイアスといってもよいけれど。